「モネータ 女神の警告【日経電子版】」
- 健司 藤井
- 2018年2月17日
- 読了時間: 3分
【今】2月12日発行の日経新聞電子版の「モネータ 女神の警告」という記事(紙媒体の1面記事からリンクした記事の形)で、小職のインタビュー記事が掲載されていたので、内容を記載しておきます。
「取引のリスクもAIで管理」-モネータ 女神の警告
株式などを売買する超高速取引システムが進化を続けている。ヘッジファンドや証券会社の間では高速自動売買プログラム(AI)を導入する動きが始まり、人間の理解をはるかに超えた取引が実効に移される可能性が出てきた。超高速取引とAIの組み合わせは金融市場に何をもたらすのか。金融リスク管理の第一人者であるみずほ証券の藤井健司常務に聞いた。
- 高速自動取引はなぜ広がったのでしょうか。
「世界規模で資産運用規模が膨らんだのが一因だ。大手機関投資家による銘柄の入れ替えが、通常の取引規模に比べて過大になり、価格を動かしてしまうケースがある。市場への影響を避けるために、小分けにしてコンピューターが自動発注を行う」 「ただ小分けにすると、すべての売買が成立するのに時間がかかってしまう。こうした投資家と証券会社の悩みに対し、証券取引所は高頻度で高速の取引を可能にした超高速取引システムの導入で対応した。取引所は大手機関投資家のマネーをひき付けるために争うようにインフラ整備を進めた」
- 証券会社やヘッジファンドは高速取引プログラムにAIの導入を進めています。影響をどう見ますか。
「取引戦略のブラックボックス化が進んでいくだろう。膨大なデータを基にAIがどう学んで売買の戦略を決めたのか、人間には分からないからだ。例えば、AIのとった取引戦略が昨日と今日で異なる理由を説明するのは難しい」 「金融の世界は事件が起きるたびに、問題を直そうという機運が生まれ、改善努力を繰り返してきた。1998年のロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)破綻で、ヘッジファンドなどレバレッジの高い運用機関の管理方法など課題が明らかになり、官民を挙げて再発防止策に取り組んだ。ただしブラックボックスのAI取引が波乱を起こした場合、過去に遡って原因を追究できない可能性がある」
- 金融市場の危機を避けるにはどうすればよいですか。
「テクノロジーの進化が止まらない以上、人知がいかに事前のリスク管理を改善しても、近い将来、株価や為替、債券価格の急変動『フラッシュ・クラッシュ』が起こる可能性が高まっている。リスク管理者としてとるべき方策は事前の準備に加え、事後のリスク管理に万全を期すことだ」 「取引の自動ブレーキは重要だ。87年のブラックマンデーの後、先物市場では株価の急変動で一時、取引を強制的に止めるサーキット・ブレーカー制度が導入された。2010年のフラッシュ・クラッシュを受けて、個別株に同制度が採用された。その後も超高速取引は進化を続けており、バランスを考えながら、よく利くブレーキを入れないといけない」
- 取引は目視できずブラックボックス化が進むと、人間がブレーキを踏んでも間に合わない可能性があります。リスク管理における人間の役割はどう変わりますか。
「世界の金融リスク管理担当者の間ではAIに対するガバナンスをどう構築するか、といった議論が始まっている。人間ではなく、AIによってAIを管理する考え方もある。いわば機械対機械によるリスク軽減策といえる。ここでリスクを軽減するプログラムを考えるのは、まだAIではなく、生身の人間たちだ。リスク管理者が様々な金融システム危機を通じて培ってきた経験知が、発揮されるべきだろう」
(聞き手は宮本岳則記者)

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