「天文学者」
- 健司 藤井
- 2018年3月17日
- 読了時間: 3分
おかげさまで、小著「増補版 金融リスク管理を変えた10大事件+X」が増刷されることになりました。稚拙な文章にお付き合いいただいた方には、心より感謝いたします。 この本は、改訂前の初版「金融リスク管理を変えた10大事件」が5,494冊販売されたので(あと6冊売れてくれれば切りが良かったのに、と思いましたが)、今回初刷の2,000冊と併せて、7,500冊分ものサポートをいただいたことになります。個人的にも最も愛着のある本になりました。 この本で一貫して評判がいいのは表紙(中身よりも苦笑)ですが、これはオランダの画家、フェルメールによる「天文学者」です。この絵が表紙になったのも、実に偶然の賜物でした。当初、金財さんからの提案は、幾何学的な模様による表紙でしたが、「表紙は西洋絵画にさせてもらえないか」と、わがままを言ったところ、快く聞き入れていただきました。「ではご自分で絵画を選んでください」となって、最初に選んだ絵画は、嵐の海に翻弄される中世の難破船、というモチーフの絵でした。ところが、表紙カバーのゲラまで作成された段になって、同じ絵を表紙にした本が、こともあろうかリスク管理を題材したもので存在することが分かりました。金財さんの内部で検討いただき、せっかくの新刊本が表紙カバーでケチがつくのも良くないだろう、ということで原案カバーはボツになり、2日以内に新しい絵を選んでください、という話になりました。 またネットを探すことになりましたが、「金融リスク」を表わしてくれるような適当な絵画は見つからず、発行に向けた締め切りも翌日に迫った夜、どうせ見つからないのなら、自分の好きなフェルメールの絵にしよう、と開き直って選んだのが、「天文学者」でした。グローバルなリスク管理を扱った本なのだから、地球儀(グローバル)に手をかざす学者の絵は、ちょうどいいのではないか、とも思ったのですが、よく見ると学者が手をかざしているのは「地球儀」ではなく、「天球儀」でした。(「天文学者」ですから、当たり前です笑。)とはいえ、金財さんへの締め切りにも何とかぎりぎりで間に合い、表紙の評判も非常に良かったので、結果はこの方が良かった、ということでした。 このエピソードから、個人的にはひとつ教訓を得ました。「リスク」から「難破船」という発想自体があまりにありふれていて、「リスクマネジャーは究極的に『リスクシナリオライター』であるべき」、というモットーからは反省すべきだった、 ということ。人間、発想は柔軟にしないといけません(特にリスクマネジャーは)。 なお、この表紙には、後日談があります。本を出版した後に、旧勤務先の先輩が翻訳された「アルファを求める男たち」(ピーター・バーンスタイン著.山口勝業訳。東洋経済新報社.2009年発刊)の表紙カバーにも「天文学者」が使われていたことが、知り合いから指摘されました。あっと思ったら、その本は自分の書棚にも並んでいました。絵を選んだときは、せっぱつまっていたのですが、どこか深層心理に刻まれていたのかもしれません。
【本稿については、「増補版 金融リスク管理を変えた10大事件+X」の表紙カバーを参照ください】

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